NOAの小部屋

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クリムトの接吻以後が枯世紀  宮坂静生

クリムトの接吻と言えば、この絵でしょう。
気は優しくて力持ち。
面倒見も良く、画家やモデル達からも慕われていたというクリムト。
…ちょっと、女好きだけど…
(多くの女性モデルと男女の関係になり、
死後14件も子供の認知訴訟を起こされています~
)


そんな彼でしたが、心の中に一筋にいたのは、
この接吻に描かれている女性、エミーリアただ一人でした。

55歳の時に、インフルエンザを患い、
「エミーリアを呼んでくれ」の言葉を最後に、
その長くはない生涯を閉じましたが、
エミーリアも、彼の死後はその手紙を全て焼き払い、
生涯独身を貫いたといいます。
結婚には至りませんでしたが、
彼女はクリムトにとって唯一無二のパートナーでした。

ところで、副題に接吻とついている絵はもう一つあります。

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ベートーヴェン・フリーズ・第3場面-歓喜・接吻

ベートーヴェンのあの有名な交響曲第9番の
「第4楽章・歓喜の歌」を絵画化した壁画作品です。
楽聖ベートーヴェンを称える為に企画・開催された展示会に出品されました。
取り壊される予定であったにも関わらず、
高価な金泥を使って仕上げてあり、現在では予定を変更して、
オーストリア美術館の分離派館に移築保存されています。

例によって、当時の批評家などからは、
「卑猥」だとか「醜悪」だとか批判を受けましたが、
クリムトの美への信念に揺るぎはありません。


金細工師の息子として育ったクリムト。
このマーブル模様や、画面全体を覆う金は、
日本美術に影響を受けていると言われ、
尾形光琳の「紅白梅図屏風」とよく似ています。


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人間になりすぎていま捨案山子 吉本伊智郎
見えてしまふことの孤独を雪ふりつつ  小川双々子
赤ちゃんの螺旋構造霜柱  佃悦男
仲良くはないが集まり冬眠す  小林貴子

風の子の北風の香を抱きとめる NOA


冬の句を集めてみました。(捨案山子のみ秋の季語です)
年の瀬も押し詰まってきましたが、
皆さんお風邪など引かれませんように…


 
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駆け巡るムンクの精の秋闌ける
 
過去に作った句。
最初のインスピレーションを得たのは、絵とは関係ない所でしたが、下の「マドンナ」を見た時に、ふっと形になりました。
句を整理がてら見つけ、少し推敲してみようか…考え中です。

 

『マドンナ』エドゥアルド・ムンク
 
このモデルの女性は実在したようです。ムンクが好きだった女性ですね。
他の男性と結婚しますが、結婚後も奔放な生活を送り(ムンクを含む)、最終的にはロシアの青年に銃で撃たれて亡くなっています。
 
という訳で、マドンナ(聖女)というタイトルですが、彼女は「ファム・ファタール、男性を誘惑して破滅に導く悪女…19世紀に流行した思想に繋がる絵画です。
左下には胎児。そこから始まって、絵の周りを取り囲むように精子が泳いでいます。
「…生の神秘のカラクリと女の魔性が、謎と不安に満ちた筆致で描かれている。(大原美術館案内書より)
 





 
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振り返ってみると…。
絵画に関する句を、
ちょこちょこ作っている
ことに気付いて、
リストUPしてみました。
 
 
★クリムト
クリムトの眼閉ぢる女朧なる

★ゴッホ
片影や黄金律の碧き人
キャンバスの白青オレンジ夏野原
寒星のアダルトチルドレンに降る


★モネ
運命をゆつくりと曲げ白日傘
1/f
の揺らぎや雪の声
(えふぶんのいちのゆらぎやゆきのこえ)
Gひとつ増えているらし風邪心地


★シャガール
ビビッドのシャガールの山羊冬うらら
シャガールの人や馬飛ぶ師走かな


★フォンテーヌブロー
冴ゆる夜の裸婦の指先謎めきぬ


★ワイエス
ワイエスの白の呪縛や落ち葉踏む

冬木立ち余白に空を生かしきり


★自作の絵
パステルの紅(あか)で描く裸婦月冴ゆる
画布立てて桃の憂鬱とじこめり


★加山又造
縛られて見えしものあり花月夜


 
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今も大して進歩はしていませんが、句作を始めて一年目の、
恥ずかしくも稚拙な句が沢山あります~~

以前の句を見直して、推敲するのも良いかもしれません…
 

クリムトの句、追加しました。
 
 

 
日傘の女(左向き) クロード・モネ

 
 
運命をゆっくりと曲げ白日傘
思惑のシャツからはみ出す五月かな
草笛やとても言えないそんなこと
夏兆すガラスコップのミント香
 
 
日傘の絵画と言えば、やはりクロード・モネ…!
亡き奥様への想いを込めて描かれた日傘の女。
 
モネは日傘の女性の絵を何枚か描いているが、
「散歩道」のみ、奥様自身がモデルとなっており、
日傘シリーズの中では一番最初の絵となる。
顔も、唯一はっきりと描かれている。
この絵を描いた4年後に奥様が亡くなり、
悲しみに打ちひしがれたモネが、さらに数年後に描いたのが、
顔のはっきりしていない、日傘の女2作である。
 
日傘の女(右向き)モネ

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散歩道 モネ
 
 
右向きの「日傘の女」には影がない…
これは、亡くなった妻カミーユへの惜別の気持ちを表しているという。
 
「私は新しい試みに取り組んでおります。私の納得するままに
風景画のように戸外の人物を描くことです。」
当時付きあっていた女性アリス(後に結婚する)にあてた手紙に、
モネが書いた内容である。
 
確かに、最初に描かれた「散歩道」と違って、
消え入りそうなのだ。
生きている人間の存在感が余り感じられない…
風景に完全に溶け込んでいるように見える。
 
今回の句には、左向きの「日傘の女」を合わせてみた。
こちらは影はあるけど、やはり顔はない。
描きたくなかったのか、それとも描けなかったのか…。
 
…愛しい人を追憶の風景画のように描いたモネ。
これ以降、モネは人物画を描いていない。
 
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この絵は、フォンテーヌブロー派の象徴的な絵として有名であるが、
作者は未だ解明されていない。
題名は「ガブリエル・デストレ姉妹」。
二人の入浴中の女性の右側が、姉のガブリエル・デストレ。
フランス国王アンリ4世の愛人である。
いかにも奇妙なポーズのこの絵、観るものに不思議な印象を与える。
 
左は妹のヴィヤール公爵夫人であるが、
何故、姉ガブリエルの乳首をつまむポーズを取っているのだろうか。
 
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「ガブリエル・デストレ姉妹」
 
フォンテーヌ・ブロー派の絵画には、
寓意的な意味が多く込められており、
この奇妙なしぐさは、母乳を連想させ、ガブリエル・デストレが
国王アンリ4世の子を懐妊したことを、示唆しているといわれている。
奥の部屋では、侍女が縫っているのは産着。
 
さらに、ガブリエルは、左手指先で指輪をつまみ、
こちらに見せつけるしぐさをしている。
そのしぐさには、アンリ4世との婚約、
あるいは結婚を強く望むというメッセージが、
込められていると言われている。
彼女は、王の遠征に付き従って世話を焼いたり、
国の政策への助言も行っていたという。
王との間に3人の子を設けてもいる。
 
王には妻がいたにも関わらず、彼女との結婚を目論み、
妻のマルグリットとの結婚の無効を教皇庁に申請する。
ところが、4人目を妊娠中だった彼女が、
あるパーティに出席した直後、急死してしまう…。
25歳でのこの唐突な死には、毒殺説も囁かれた。
結局、この絵に込められた願いが叶うことはなかったのである。
 

☆今日の俳句☆
 
冴ゆる夜の裸婦の指先謎めきぬ
乗初(のりぞめ)はガム一枚分揺られけり
注射器を登る我が血や寒昴(かんすばる)
 


 
シャガール展!行ってきました~♪
今回は、オペラハウス、美術館、教会、大学、病院など
公共空間を飾るモニュメント的な作品に焦点を絞った展示でした。
天井画や壁画、タピストリー、モザイク画、ステンドグラスなど…。
未公開作品が多く含まれていたようです。
 
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60歳を超えてもなお、
新たな技法で巨大なスケールの作品に挑み続けた、
旺盛な制作意欲と才能には驚かされました。
シャガールの凄さ…やっと分かったような気がします…。
 
彼もピカソと同じで長生き、97歳まで生きています。
ピカソと並んで陶器を制作している写真もありました。
↓左がピカソ、右がシャガール。
 

 
中でも印象に残ったのが、
パリの国立オペラ座(オペラ・ガルニエ)の天井画です。
 
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写真が拙くて見にくいと思いますが、
この豪華絢爛なオペラ座の雰囲気と、
シャガールのふわふわと幻想的な絵が、意外にも
ぴったりとマッチしているのがおわかりでしょうか…?
 
天井画というと真っ先に、システィーナ礼拝堂などを手掛けた
ルネサンスの巨匠ミケランジェロを思い出すのですが、
そういった重厚な雰囲気とはまるで違うシャガールの絵が、
こんなにも合っているのが驚きでした。
 
一番最初に天井画を描いた画家、ジュール=ウジェーヌ=ルヌヴは
ルネサンス期を思わせるような画風に見えます。
シャガールが注文を受けることによって、
彼の絵画が取り外されることになるので、
最初は受注を逡巡したようです。
 
 依頼は1963年、当時の音楽大臣アンドレ・マルローによるもので、
当時フランス国内で大きな話題になりました。
 
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↑こちらは、天井画だけを撮影したものとなります。
音楽史を飾る数々の舞台作品をテーマにしたこの天井画は、
完成までにおよそ1年を費やし、
多くの下絵やスケッチが残されています。
 
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天井画の下描きの一部。
それぞれ色別のパートでテーマが別れています。
このちょうど真上の緑の部分が、前回のシャガールの句の記事で
ポスターになっていた部分です。
こんな下描きを、莫大な枚数残しています。
 
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シャガール制作中の風景。
椅子に座って描いたり、中腰で描いたり…
ミケランジェロのように、首を真上に反らせて、
天井に直接描いていた訳ではないんですね。
それなら、疲れ具合も身体の痛み具合も全然違うでしょうね。
 
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最終的には、こんな風に台を組んで、
パリの大きな格納庫で、最後の調整をしていたようです。
 
そして、彼はそのパリオペラ座で上演されたバレエ、
「ダフニスとクロエ」の舞台装置と衣装のデザインも手掛けています。
 
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多才ですね~!この背景も勿論シャガールの作品です。
 
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右側のページにあるのが、衣装デザインのラフスケッチになります。
実際に展示されている衣装を見ましたけど、
非常に個性的でユニークなデザインでした。
近くで見ると、ちょっと大雑把(?)
遠くから見ると映えるのかな…という印象です。
 
このオペラ座の仕事をきっかけに、
公共施設での受注が様々に舞い込んでくるようになったようですね。
 
人生の最後の30年間、今まで手掛けたことのなかった領域に近づき、
新たな手法で絶えず刷新される比類のない作品を
鍛え上げていったシャガール。
まさに知られざる彼の一面を堪能できた展覧会でした。
 

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